救助

友人の若者達と共に1階で閉じ込められたお祖父さんを助けるべく
声を頼りに少しずつ瓦礫となった家の木材を手鋸と人力で少し開けては、
確認しながら進めるのですが、声を聞こうにも上空のヘリの音で
声がうまく聞こえない。
「何の為のヘリ何や!」「邪魔ばっかりしやがって!」
誰からともなく声が上がる、でも怒鳴っていても仕方が無い、
分かっているが言わずにはいられない。
場所がわかり助けようとした時、そこには、大きな梁があり
手鋸ではとうてい切れそうも無い「消防署行ってチェーンソー借りて来い」
若いのが走って行った。これで助けられる誰もが思った、彼が帰ってきた。
手には何も持っていない、
「出払っていて、待ってる人が何人もいていつになるか解からん」みんな、
肩を落した。
しなくては、行けない事はまだここにある。
もう一度、手鋸を持った力の限り木に向って挑んだ、
一人が疲れたら交代で次々に鋸を引いた、少しずつの切れ目がとうとう
下まで到達した、声が上がる、「ここからやで!」みんなで声をかける、
一気に捲って行く、お爺さんの腕が見える、足場を作って一人が降りる、
みんなで体を支える、手を掴んだ、みんなで体ごと引き上げる、
狭い場所に閉じ込められて体力も弱ってた、でも元気に「ありがとう」
うれしかった、みんなうれしかった。
冬の暖かな日中ではあったが、みんな汗だくになって
手も顔も煤で汚れていた、ここで浮かれているわけにはいかない
次に俺達にできる事は?
 この頃、近くの友人知人の様子を確認しに一回り近所を廻ったのですが、
道は、崩れた家に塞がれ、道路は盛り上がり本当に時空の隙間に迷い込んだ
「漂流教室」のようでした。
当時家内が仲良くして頂いていた、奥さん(友人のお姉さん)が
閉じ込められている所へさっきの友人と一緒に行き
形のなくなったアパートにその友人と合流し、人がやっと入れる隙間から
這ってアパートの中に入り、程なく女の子をひっぱり出しその後すぐに
彼女をひっぱりだした。
その時体は、まだ温かく急いで病院へ運んでいってもらった。
 けれど、それから2時間もしない時に道で会った知り合いの方から
信じたくない事実を知った。聞けば、殆ど即死に近い状態で布団の中で、
まして狭い空間であった為に、体は、温かいままであったそうです。
今でも、彼女を引っ張り出す時の温もりをはっきりと覚えています。
あの時は悔しくて道路の真中で、大きな声で「なんでなん!」と、
誰に言うでもなく、答えを求め、叫びました。続く


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